2021-01-01から1年間の記事一覧

植物は天国の夢を見る

君の温度に値札がついていたころ 下駄箱に入っていた上履きは 左右がいつも逆でリノリウムの床に 叩きつけるように 上履きを落としたとき弾丸のような音は 肺を一気に貫いて 押し出された空気が固く閉じた唇の裏側に 突き放すように触れた。 生きることがし…

それできみは

言葉というのが自分の身体の延長線上にあって 肌をつねったりひっかいたりしたときに痛みが生じるように ただ生きている事実だけを形に残せたらどれほど良いだろう。無人島に漂流したときに何日経過したのかわかるように 木を削って彫りつけていく無数の☓の…

読書日記8/3

多和田葉子さんの「百年の散歩」というエッセイを読んでいる。 様々な町の通りを舞台にした旅行記のような短編集で 冒頭の「カント通り」を読んでいたら すぐ右隣で、ばさっと音がした。天使が羽根を広げたのかと思えば、そうではなく新聞だった。 という文…

現実の君は無罪だ

三人称日記に慣れてきたら次は裏日記をおすすめする。裏日記に書かれていることは全て本当ではないのだけど、まるで本当にように描かないといけない。嘘をつくこつは真実をベースにして2割,3割の嘘を混ぜることだ。たとえば君が朝、出勤するときに犬と通り過…

遠い空の雲の横顔.jpg

体がマックシェイクみたいにドロっとしていてだるくて 心がタピオカミルクティーに詰められたタピオカみたいに ぐにぐにしていて ひと思いに噛んだら潰れてしまいそうだ。仕事を無理やり終わらせて 水族館に行ってペンギンやアシカが 同じ場所をぐるぐる泳ぎ…

おにぎりセット

3時。本来なら眠りの世界の中にいて、運ばれてきた無意識をナイフとフォークで切り分け一口サイズの夢にして、その苦味をブニブニした食感と合わせて食べている頃だった。しかし火山が噴火するくらい力強い空腹が、薄っぺらい毛布にくるまって眠りの世界へ運…

三人称日記のススメ

よく宇宙人が地上に降り立ったときに 「我々は宇宙人だ」と地球人に言うようなイメージがある。勝手な偏見でしかないけれど きっと宇宙人はマッチングアプリでマッチした相手にも 「我々は宇宙人です」とメッセージを送り MEではなくWEということを訴えてく…

前田司郎『夏の水の半魚人』感想文

SNSを漂っていたら 「評価されないのでその正体を知りたい。誰か小説を読んでください」 という投稿を見かけて、その正体がわかれば苦労しないんだけどなあ と思いながら興味本位で読んでみたところ あっさりとその「正体」が見つかったことがある。その小説…

スケラッコ『バー・オクトパス』感想文

夜中におにぎりが食べたくなって 住んでいるマンションの外へ出た。僕の住んでいる場所はわりと都会で コンビニに行くまでの道のりにバーと スタジオがある。非常事態宣言が出ているので仕方ないのだけど 22時前だというのにバーは閉まっていて 「酒類提供し…

最果タヒ『もぐ』読書感想文

夏といえば夏休み。 夏休みといえば読書感想文。そんな単純な連想ゲームで、今日は読んでいて面白かったエッセイ 最果タヒの『もぐ』を紹介します。最果タヒというのは現代詩人です。 詩のほかにもエッセイや小説も書いています。今日紹介する『もぐ』は「食…

四方八方に飛び散った

太陽とか水星とか土星とか 宇宙にある惑星たちが TSUTAYAのDVDコーナーの隅っこにある ノンフィクション作品を集めた黒い棚で 埃を布団にして眠っている。そんなつまらない話を充電が切れかかった ブルートゥースイヤホンで聞いている。目的地に向かって歩い…

何を書こうかなと思うとき

太宰治が文章を書くコツのひとつとして 「好きな人に話しかけるように書くといいよ」 と言ったらしいので、だから僕も 恋多き死にたがりの文豪にあやかって 好きな人に向かって書くことにする。と、宣言したものはいいものの 正直に言うと 僕はいま何を書け…