おにぎりセット

3時。本来なら眠りの世界の中にいて、運ばれてきた無意識をナイフとフォークで切り分け一口サイズの夢にして、その苦味をブニブニした食感と合わせて食べている頃だった。

しかし火山が噴火するくらい力強い空腹が、薄っぺらい毛布にくるまって眠りの世界へ運ばれかけていた僕の全身を突き動かした。毛布を蹴飛ばし、ベッドから勢いよく立ち上がると簡単な着替えだけ済まして、家のドアを開けた。

外へ出ると夏の熱さが夜闇にまで溶け込んでいるのか、白いシャツ一枚だというのに肌寒さは感じなかった。

何の熱も感じない空気の中をふらふらと歩いていると、外気と自分の体の境目がわからなくなり、夢の中を歩いているような感じになった。フィッシュマンズのナイトクルージングという曲を思い出す。

いまなら小汚いおっさんが目の前に現れて僕のことを指差し「あなたは夢遊病患者だ」と言われたとしても信じてしまいそうだった。

体がふわふわしてそのまま車道へと歩いていきそうなくらい現実感が無かったため、ポケットに突っ込んだキーチェーンの金属部分を握りしめて伝わってくる固い感触で、ここが夢ではないことを自分に訴えていた。

コンビニの前のたどり着くと、コンビニと対峙するようにガードレールに背中を預けるようにしてインド人らしき中年男性がぼんやりと立っていた。コンビニの無機質な光を浴びた顔は、つまらない映画のエンドロールを見ている観客くらい無表情で、僕は「彼は何をしているのだろう?」と少しだけ思いながら、インド人をチラ見するとコンビニの光の中に入っていった。

入口横に置かれているコーヒーマシンから漂ってくるコーヒーの匂いを嗅ぎながら、「どのくらい食べればこの空腹は静かになってくれるのだろう」ということを考えていた。

おにぎり一個では空腹にはさしあたって軽いダメージしか与えることができず、かといって食べ過ぎればその消化で眠りにつくことが困難になりそうだった。

結局、なんでも鑑定団のような眼差しでいろいろな食物を物色した挙げ句、おにぎりセットにした。おにぎり2個とからあげが入っている。というか唐揚げが食べたかったんだと思う。

おにぎりセットを片手で掴みながらコンビニの外へ出るとインド人はいなくなっていた。