スケラッコ『バー・オクトパス』感想文

夜中におにぎりが食べたくなって
住んでいるマンションの外へ出た。

僕の住んでいる場所はわりと都会で
コンビニに行くまでの道のりにバーと
スタジオがある。

非常事態宣言が出ているので仕方ないのだけど
22時前だというのにバーは閉まっていて
酒類提供しません」という張り紙がしてあった。

お酒を提供しないバーって
何をするんだろう?と思いながら
そもそも「バーって行ったことないかもしれない」ことに気づく。

僕の中のバーは
「カウンターがあってマスターがいて
すごく静かなところ」という
幼稚園児の落書きくらいに雑なイメージのものしかない。

よほど縁がない限りは自ら足を踏み入れることはないだろう
と思っていたのだけど、何となく絵柄に惹かれて手にとった
『バー・オクトパス』という漫画を読んだら
少しバーという世界に足を踏み入れたくなった。

この漫画は
海の中の世界が描かれていて
無口なタコのマスターが一匹で営業しているバーが舞台。

主人公は人魚のOLで
「バー・オクトパス」には
定期的に通っている。

1冊完結の連作短編集という感じで
基本的に1話ごとにエピソードが変わるのだけど
海の中の世界なはずなのに描かれている悩みは
わかるわかる、と頷いてしまうものばかり。

会社の人とうまくいかないとか。
同窓会に気乗りしないとか。
良い人だけど苦手な人がいるとか。

そういう些細だけどトゲのように刺さり続ける悩みや
タコスミのようにもやもやとした感情を

バー・オクトパスという居心地の良い空間と
マスターが8本の足を駆使して作る美味しいお酒が
優しく包みこんでくれる。

それにしてもバーというの不思議なもので
当たり前だけど自分以外にもお客さんがいる

主人公の人魚のOLさんにとって
「バー・オクトパス」はマスターが話を聞いてくれるだけ
居心地の良い空間だけど

常連さんが登場することでさらに愉快になったり
あるいは苦手なお客さんがいることで
居心地が悪くなっていく。

それこそバーで出されるカクテルのように
お酒の組み合わせ次第で
アルコールに合わせて美味しさが体に染み渡るようになったり
口に入れた瞬間にペッと吐き出したくなるような味になることもある。

だけど、自分にとって居心地のいい場所
それがバーでなくたって、あるというのは
本当に良いなと思ってしまった。

良い漫画でした。