永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』感想

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ

さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ


タイトルから風俗レポみたいな印象を与えてしまうけど、確かに風俗レポではあるのだけど、それだけじゃ収まらない。

少しでも人生が生きづらい人は、この漫画を読んだら心に届くものがあるんじゃないだろうか。私はガツンと来た。

ノンフィクション漫画にリミッターというものがあるとしたら、軽々と超えてしまったような気がする。

ネットのどこかで「名作というのはいままで知らなかったことを書いたものではなくて、みんな知っているけど言葉にできなかったことを書いたもの」っていうのを見たけど、この漫画がそうなんじゃないかな。

「死にたい」や「生きづらい」という曖昧なものの正体を、その幾つかの理由にはっきりと言葉を与えてくれたと思う。


この漫画の三分の二くらいは、どうしてレズ風俗に行こうと思ったのか、という過程(大学退学後の十年間)が描かれている。

大学をやめて、所属する場所を失った永田カビはスーパーでバイトを始めるんだけど、鬱病摂食障害もあって、遅刻や早退を繰り返してしまう。

11ページの2コマ目に書かれている文章。

私はバイト先に「何があっても私を認めてくれる居場所」である事を求めていたのだ。

というのはすごくわかる。自分も働いていてそういう感覚を受けたことがある。自分を少しでも承認してくれるのは職場くらいしかない人間だから。
でも、永田カビがすごいのは「労働の対価として賃金を得る場所だ」とちゃんとわかっているところ。

不安定な状態のときの自分をちゃんと理解することはすごく難しい。そもそも自分を知るということが難しいのだ。

この漫画には、自分のことを考えて考えて、少しずつ理解していく過程が描かれている。
「私」が自分のことを大切にしていないことに気づいたり、親の要求に応えたいんじゃなくて親のごきげんを取りたい「私」がいることに気づいたり。

その果てがレズ風俗に結びついていって、そこでもまた発見があったり、そういうのが全部丁寧に描いてある。

そこに嘘や偽りが感じなくて、普通だったらためらうことも平気で描いてあるから、すごく感動する。
漫画にも描いてあったけど、自分を大きく見せようとしないで、等身大に描いてあるから、永田カビという人間をリアルに感じられる。

ノンフィクション漫画で作者自身のことが描いてあると、どこかキャラクター化されているように感じるんだけど、この漫画はあんまりそう思わなかった。

悩みとか考えていることが本当に真剣だからかもしれないし、自分のことを突き放してみているからかもしれない。
「かわいそうな自分」という感じがまったくないから、安心して読める。

バイトをしている間に拒食から過食になってカップ麺を生でかじって血が出たとか、母親に尻を見られたり触られたりすると嬉しいとか、ところどころ絵がコミカルになったりして、そういうところもおもしろい。

読んでいて「わかる」「すごいわかる」というのが多くて、読み終わったあと放心状態になってしまった。永田カビほどひどくはないんだけど、自分も似たところがある。

今年いろんな小説や漫画や映画に触れたけど、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』が一番衝撃的で、一番おもしろかった。