小説を暗記する方法、またはなぜ小説を覚えるのか?

桜が見頃を迎えたというのに、ひたすら小説を暗記している。
芥川の蜜柑の全文はすっかり覚えてしまい、いまは梶井の檸檬を脳内へ入れ込んでいる。

今回は小説の暗記方法について考えていきたい。
まず小説を覚える理由なのだが、これは退屈でどうしようもないときに脳内で読むためでもあるし、夜眠るときにやってくる不安を追い払い、目を閉じながらでも小説を楽しむためでもある。

小説を暗記するために重要なのは「記憶術を使わない」ことだ。もともと記憶術と長文暗記は相性が悪い。場所法も置換法も有効ではない。また、すばやく効率よく暗記することがどんな場合でも正しいわけではない。制限時間があるわけではないし、読書を楽しみながらゆっくり覚えればいい。

とはいえ、長文を覚えることを繰り返していると否応でも覚えるコツのようなものを掴んでくるものだ。小説を暗記するという無益な戯れに浸りたい人のために記しておくことにする。

まず、大切なのは「暗記よりも想起を大切にすること」だ。具体的には一文を読んだら、その一文を見ないで頭の中で何回も繰り替えし再生する。もう覚えたな、と思ったら次の文へ移り、同じことをやる。ある程度文章が進んだら、いままで覚えたものを一から想起してみる。それだけで結構だ。

中には間違いやすい箇所や覚えにくい箇所もあるだろう。そこは重点的にやればいい。覚えた箇所は、信号を待っているときや犬に追いかけ回されているときなどの日常の中で想起するようにする。

そういった日常においての想起は小説の冒頭からはじめることが多いと思うのだが、ある程度以上覚えていくとかなりの時間がかかるようになる。脳内での暗唱を、途中で打ち切ることもあるだろう。そうすると必然、小説の後半部分よりも前半部分の方が想起される回数も増えるため、後半がなかなか覚えられないという自体が発生しやすい。
そのため、小説をあらかじめ分けておいた方が覚えやすい。芥川の蜜柑だと、前半の部分を完璧に覚えたあとは「それから幾分か過ぎた後であった」のところから想起するようにしていた。

慣れないうちは覚えるのに時間がかかるかもしれないが、次第に覚えるまでの時間が短くなっていく。エビングハウスみたいに言えば節約率が上がる。
蜜柑程度の短編であれば1週間くらいで覚えられるだろう。キミは手や目を使わなくても小説が読めるようになる。