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好きなものを忘れる

人と話していると趣味を聞かれることが多い。だいたい「小説が好きです」というふうに答えるのだけど、そうすると「好きな作家はいますか?」というふうに問答が続く。
好きな作品を言えばこと足りるのだが、なぜか私の頭は働かない。大量にあるはずなのに何一つ思い出せない。
頭の中では的が回っており、私はダーツを手にとっている。パジェロパジェロ、という声が聞こえてくる。しかし、好きな作家は誰かという問いに対して、国産の乗用車を答えるのはトリッキーすぎる。
ダーツが的にささり私は答える。
ヘミングウェイです、と。
どこからヘミングウェイが出てきたのかわからない。高校のとき「老人と海」を読んだきりだった。内容もうろ覚えである。鯨に飲み込まれるんだっけか。いや、それはピノキオだ。
当然、話も広がらない。
「まあ、なんか、文体が渇いてていいと思います。おすすめですか? おすすめは老人と海ですね。あれは自然がパンパンパーンっていう感じで、感動しますよ。なんか、はい、感動ですね」
私はそっと視線を外す。凪のような沈黙が襲う。
会話が終わってから、好きな作家をごそっと思い出す。薄ら笑いで彼らはやってくる。ちょっとそこのコンビニで、おでん買ってたんですよー、とでも言わんばかりに。いいんだよ、と私は言う。それも人生さ。
しかし、なんで私は肝心なときに好きな作家を忘れるのだろう。
他人からジャッジされるからだろうか。確かにあんまり本を読まなさそうな人に、中原昌也が好きです、とは言いにくいのだが。
おそらく、無意識のうちに相手が知っていそうでかつセンスの良い作家を探してしまうのだと思う。
自分が欲しいと思っている洗濯機よりも、豪華だという理由でパジェロを狙ってしまうあさましさがあるのだ。
これからは自分の好きなものを聞かれたら、相手を気にせず胸をはって答えよう。

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